【1000文字小説】朝のニュース



秋由は運転席のドアをあけシートに滑り込むとエンジンをかけた。ギアをローに入れ駐車場から愛車を出した。会社の始業時間は九時。いつものように車を飛ばしていけば十五分前には会社の駐車場に車を止め十分前には机についていることができる。

秋由はラジオのスイッチを入れた。会社までの三十分間、彼はいつもラジオでニュースを聞きながら運転していた。

聞き慣れた男性アナウンサーがニュースを読み上げていた。「では次のニュース…」ニュースは彼の住んでいる町の名を告げた。

何事だ?

注意して聞いていると、聞き慣れた名前を喋っていた。それは彼の会社の上司だった。早坂という上司が、妻を殺したと言っている。逮捕されたと言っている。

秋由は信じられなかった。

早坂は昨日も普段と変わらずテキパキと仕事をこなし、部下に指示し、注意もし、そして定時に帰って行った。

以前に何度か早坂の家を訪問した事がある。その時に早坂の妻を初めて見たが、大人しくて気が利いて美人でスタイルもよく、早坂にはもったいないなあと思ったものだった。

その妻が殺された。それも夫の手によって。

警察で詳しい動機を調べています、とアナウンサーは言った後次のニュースへと移っていった。

一体どうして殺したりしたのだろう。早坂にはもう会えないだろうか。部下の面倒見もよく、このまま順調に行けば会社で大分上の地位までいけるはずだった。聡明な彼が、何故殺人などを…。

赤信号で止まった秋由は、対向車を見て目を疑った。それは早坂の車だった。運転席には早坂が乗っている。逮捕されたのではなかったのか。そして助手席には、早坂の妻が乗っているではないか。夫の手で殺されたのではなかったのか。

信号が青に変わった。早坂の車は秋由の車の脇を通り過ぎて行った。秋由は呆然としていた。後ろの車からのクラクションで秋由は車を出した。

今の車には確かに早坂と妻が乗っていた。見間違えではない。今ニュースで言っていたのは同姓同名の人間なのだろうか。どうも腑に落ちない。

今のが早坂だったとして、いや確かに早坂だった。それならば会社に行くはずではないか。早坂は反対方向へ走り去って行った。どういうことだ?

ニュースは昨日のプロ野球の結果を言っている。巨人が負けて阪神が勝った。そんなことはどうでもいい。早坂は妻を殺したのか、殺してないのか。殺してないとしても、では一体早坂はどこへ行くのか。ニュースは何も教えてくれない。(了)


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