【1000文字小説】ネコがいない

「お願い、お願い、お願い」と久美に頼まれて仕方がなく雅樹は久美の飼い猫を預かった。

雅樹の二つ下の妹の久美は一週間アメリカへ旅行に行く事になったのだが、その間飼っている猫の世話を雅樹に頼んだのだった。

ペットショップにでも預ければいいと雅樹は言ったのだが、猫が喋れない事をいいことに意地の悪い店員にいじめられるかもしれない、と見知らぬ他人に預けるよりは多少頼りはなくても血の繋がった親族の方がまだ信用できると、半ば強引に雅樹に預けたのだった。

雅樹の住んでいるマンションはペットの飼育がOKだが、猫はにゃあにゃあにゃあとうるさく鳴く事もせず大人しくしているので手がかからなかった。

会社から帰ってマンションのドアを開けると猫が出迎えるようになった。日中はかまってくれる相手がいないので寂しいのかドアの開く音を聞き付け「遅かったじゃない」という顔をして雅樹を見るのだった。

無事六日間が過ぎ明日はいよいよ久美が帰って来るという日に、会社から帰って来た雅樹が「ただいま」とドアを開けた隙間から猫は飛び出して行った。

「あっ、こら」と言ったが猫は止まらずどこかへ駈けて行ってしまった。雅樹は慌てて猫の名を呼びながら探し回ったが見つからない。あちこち探して三時間、その日の探索は打ち切って明日の朝にまた探そう、そのうちに帰って来るかもしれないと思ってマンションに帰った。

ドアは猫がいつ帰って来ても入って来れるように少しだけ開けておいた。不用心だが仕方がなかった。

翌朝、猫が心配で心配で雅樹はいつも起きる時間より三時間早く目が覚めた。夜のうちに帰って来ていないかと思い猫の名を呼ぶが帰って来ている気配はなかった。

雅樹は外へ出て探し始めた。この辺の地理には疎いだろうから、迷子になってしまったのだろうか。車にでも轢かれてはいないだろうか。知らない人間に連れて行かれてしまったのだろうか…。
久美のマンションへ帰ったのだろうか、と思い会社を休み車で三十分のマンションへ行ってみたがいなかった。

一体どこへ消えたのだろう。

猫が行方不明になったのを知ったら久美は怒るだろうか、悲しむだろうか。

夕方になると久美が帰って来た。真っ先に「猫は?」と聞かれ「うん、それが…」と雅樹が口ごもっていると猫の鳴き声がする。

「あら、どこ」

「どこだ」

声はするが猫の姿は見えない。にゃあにゃあという声を頼りに姿を探すと、久美の旅行鞄の中から猫は出て来た。(了)



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