【1000文字小説】三年ぶりの再会



弘明が絵里の姿を見かけたのは三年ぶりだった。

絵里は三歳ぐらいの女の子に手を引っ張られ、弘明のいたファーストフードショップへと入ってきたのだ。

絵里は商品の置かれたトレーを持って客席を見渡し東側の席に着いた。一番奥の席に座っている弘明には気づかない。

どこかあどけない表情は子供がいる今も変っていないと弘明は思う。

三年前、弘明はプロポーズした。が、どうにも絵里が煮え切らない。そのうち絵里がもう一人つきあっている男がいることがわかった。
弘明は激怒したが、絵里はそれほど罪悪を感じている様子もなく、弘明とはあっさりと別れた。絵里はその男と結婚し子供も生まれたという。が、別れた後も絵里を忘れられなかった。

その後弘明は仕事の都合でこの街を離れることになった。絵里のことを忘れるいいきっかけだと考えた。この街に戻ってきたのは一ヵ月ほど前のことだった。

弘明は決心したように立ち上がり、絵里の座っている席へと歩み寄り、躊躇いがちに声をかけた。

娘にばかり気を取られていた絵里は驚いたように顔を上げたが、弘明の顔を確かめると「あ、弘明」と三年前と同じように、屈託なさそうに笑った。

「元気かい」

「ええ」

「座っていいかな」

「どうぞ。娘なの。ほら、里美、挨拶しなさい」

里美は「こんにちは」と言った後、すぐにまた食べることに集中した。

母親似だな、と弘明は思う。
目のあたり、輪郭の線、口もとなどそっくりだった。髪も絵里同様ショートカットにしているので、余計そう見える。

お互いの近況をしゃべりあったが、夫の話題が出ないので弘明は話の接穂に、「旦那さんは元気かい」と尋ねた。

絵里はすぐには答えなかった。

やはりどこかとがめるような響きがあったのだろうか、と訝しく思っていると、絵里は躊躇いがちに言った。

「死んだの。もう一年になるわ」

「知らなかった、ごめん」

「別に謝ることはないわよ。交通事故だったんだ。……弘明はまだ一人でしょ?」弘明の左手の薬指を見ながら言った。

「僕? ああ、そうだよ」

絵里は、許してくれているんでしょう、というような目をして弘明を見つめた。

弘明にはかつて二人の間にだけ存在した濃厚な空気が、今また蘇ってきたように感じられた。

里美があどけない顔をして尋ねた。

「おじさんが新しいパパになるの?」

弘明に代って絵里が「いいえ」と答えた。

里美にやさしく微笑みかけながら言葉を続けた。

「新しいパパじゃなくてね、本当のパパなのよ」(了)


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