【1000文字小説】洗濯機を買いに行く



悟郎は洗濯機を買いに電気店へ行った。物色していると店員が寄って来た。どこか見覚えのある店員だった。

「洗濯機をお求めですか」

「ああ、今使ってるやつ、調子悪くなって来てね」

「そうでしたか。ではこれなんかいかがでしょう」

「大きいな」

「人も一緒に洗えます」

「人も一緒に?」

「はい。仕事帰りに泥だらけで帰ってきますよね」

「泥だらけでなんて帰ってこないけどな」

「そんな時はお風呂に入る代わりに、服を着たままこの洗濯機に入るんです」

「風呂代わり?」

「人も着ているものも奇麗になります」

「そりゃすごい、って目が回るだろ」

「それは我慢ですね」

「いらないよ。ちょっと大きすぎるし」


「ではこれはいかかでしょう。コンパクトですよ」

「今度はえらく小さいな。ポットかと思ったよ」

「いえ、ポットとは思えません」

「いいだろ、そう思ったんだから」

「これは場所を取りません。テーブルの上にも置けますよ」

「洗える量が少ないだろ」

「パンツ1枚なら洗えます」

「だろうな。この大きさならな」

「ハンカチなら2枚洗えますよ」

「いらないよ。なんでパンツ1枚1枚洗わなきゃならないんだよ。一気に洗いたいよ」

「場所取らなくていいんですけどね」

「じゃあお前使えよ」

「私は使いません。パンツはいてないんで、洗いません」

「パンツぐらいはけよ」


「ではこれはどうですか。この洗濯機。リモコンを使います。ポチッと」

「お、洗濯機が変形した。すげぇ、人型になった。トランスフォーマーみたいだな」

「どうですか。最新型です」

「かっこいいな。颯爽と歩いてるよ。…あれ、どっかからタライと洗濯板持って来た。洗濯始めた」

「カッコいいでしょう。これで180万円です」

「高いよ。車1台買えちゃうじゃないか。それにあいつ、結局手洗いしてるじゃないか。変形しないで洗濯機のままで洗濯しろよ」


「これはどうでしょう。食器洗い機と一緒になっているタイプです」

「へえー、食器も洗えるの。便利だね」

「食器の方は1回洗う毎に買い替えてもらう事になりますがね」

「1回毎に全部割れちゃんだ。だめじゃん」

「食器はいつも新品のようにピッカピカに…」

「新品のようにじゃなくて新品なんだろ。だめだよ。他にないのかよ」


「これはどうでしょう。フライドチキンがいっぱい食べられる…」

「それ、洗濯機じゃなくてケンタッキーな」


「これはいかがですか。夫婦が段々お互いを飽きて来て…」

「それ、倦怠期な。洗濯機もう関係ないだろ」

(了)

プロ野球楽天の田中マー君が沢村賞を受賞しました。2011年以来の2度目です。文句なしの受賞ですね。


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