【1000文字小説】自転車を買いに行く



悟郎は自転車を買いに行った。スポーツの秋で体を動かしたい。それで、以前盗まれてから乗っていなかった自転車にまた乗りたいと思ったのだ。


「なあ、この自転車、随分安いな。480円か」

「コストを抑える為に、紙で出来てます」

「紙で? 乗って大丈夫なの」

「紙ですから、勿論乗れません」

「乗れないって、じゃあこれで何するの」

「飾っておいて下さい」

「飾っておくだけ? こんなの買う人いるのか」

「自転車に乗れない人が買っていかれますね」

「それじゃ、いつまでたっても乗れないだろうな」


「これはどうですか。パンクしない自転車です」

「ああ、タイヤが特殊なやつね。って、タイヤがついてねえ」

「絶対パンクしません」

「確かにパンクしないだろうな」

「どうですか」

「どうですかって、いらないよ。タイヤなけりゃ走らねーだろ」

「パンクしなくていいんですけどね」

「じゃあお前この自転車乗ってみろよ」


「こっちはどうです」

「タイヤなし自転車はもう勧めないのか」

「こ・っ・ち・は・ど・う・で・す・か」

「なにキレてんだよ」

「こ・っ・ち・を・見・て・く・だ・さ・い」

「見てやるよ。あれ、変速ついてないの。俺の近所坂道が多いからさ。変速欲しいよ」

「残念ながら変速はついてないんですよ。その代わり、豚足がついてます」

「豚足? 豚の足って書く豚足?」

「はい、豚の足って書く豚足です」

「いらないよ。豚足なんて。なんで豚足なんだ。変速が欲しいんだよ」

「コラーゲンたっぷりです」

「いいよ」

「お肌ツルツルになります」

「ツルツルになんなくたっていいよ。豚足なんて食べたらそれっきりだろ。変速付きが欲しいんだよ」


「坂道を走る事が多いんですね。じゃあ、これはどうですか。アシスト機能付きです」

「ああ今流行のね。あれ、バッテリとかついてないんだ。何か普通の自転車みたいだな」

「アシストが欲しいときはですね。ここに電話して下さい。私がかけつけます」

「なに、お前が来るの?」

「私が後ろを押させて頂ます」

「いちいちお前を呼ばなきゃなんないの」

「はい」

「面倒くせえ。お前が来るまで坂道上り終えちゃうよ。下り坂をアシストするのかよ」

「雨の日は傘をさします」

「いらないよ、そんなアシスト」


「ではこれはどうですか。屋根付きです」

「屋根付き?」

「あ、ちょっとお待ちください。…はい、かしこまりました。すぐ参ります」

「おい、どうした」

「お客様からお電話が入りました。アシストに行ってきます」

(了)

日本シリーズ第3戦、舞台は東京ドームに移りました。結果は楽天が5-1で巨人に勝利。6回から投げたレイの黒マスクがかっこいいですね。


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