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2013/11/28

【1000文字小説】掃除機を買いに行く



悟郎は掃除機を買いに電気店を訪れた。並べられている掃除機を眺めていると若い店員が寄って来た。

「掃除機をお求めですか」

「ああ、これまで使っていたのが壊れてしまってな。安いのでいいんだけど」

「そうですか。ならばこれはどうですか」

「へえ、中々いいね。あんまり安くは見えないけど」

「はい、18万円になります」

「18万? 高いよ。この売り場で一番高いんじゃないの? もうちょっと安いのでいいんだよ」

「じゃあ、こちらはどうですか」

「今のと似てるなあ」

「今の型の色違いです」

「値段一緒だろ。もう少し安いやつでいいからさ」

「それでは、これどうです」

「これも色違いなだけだろ。派手な色だな」

「特別色の赤です。値段が20万円と、ちょっとお高くなりますが…」

「だから、もうちょっと安いやつでいいよ」


「ではこちらはいかがでしょう。50円です」

「安! いきなり安いな。って、随分ちっこいな」

「50円ですから。おもちゃですけどね」

「おもちゃ? おもちゃなんていらないよ。普通のやつくれよ」

「え、クレヨン? しんちゃん?」


「違うよ。あれ、これ、ルンバってやつだろ。自動で動くやつ」

「いえいえ、これは違います。ストーンです」

「ストーン?」

「カーリングで使うやつですよ」

「カーリング? おい、何でそんなの置いてんだよ。掃除関係ないだろ」

「掃除はこれでしてもらいます。このブラシで」

「おい、これもカーリングのやつじゃないか。掃除機じゃないだろ」



「死んだ時に行う儀式…」

「そりゃ掃除機じゃなくて葬式な」

「うそとかつかない…」

「そりゃ掃除機じゃなくて正直な」

「昔の中国の怪奇小説…」

「そりゃ捜神記な」

「…」

「もうないのかい」

「これはどうですか」

「言葉遊びはもういいのか」

「吸引力がすごいんですよ。スイッチを入れると…く、苦しい」

「おい、大丈夫か…く、苦しい。…スイッチを、と、止めろ」

「はぁー、助かった」


「はぁはぁ、空気まで吸い込み過ぎだろ。死んじまうよ。ん? これ、よさそうだ」

「ああ、それはいいですよ。9,800円です」

「いいね。それにしようか」

「はい、ありがとうございます」

「な、相談だけどな。もうちょっと安くならない?」

「ああ、いいですよ。じゃあ1,000円で」

「ありゃ、いきなり安くなるな。最初からその値札つけとけばいいんじゃね」

「あ、これ、もうちょっと安くなります」

「え、更に?」

「50円になります」

「そりゃこっちのオモチャだ」

(了)

窓際のシャコバサボテンが咲き始めました。次から次へと咲くので一ヶ月くらいは楽しめるでしょうね。


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