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2017/05/11

【1000文字小説】死が見える



雄一は今年になってから身長が8センチ伸び、体重は5キロ増えた。視力は左右とも1・5だったのが0・7に下がった。

その視力で朝のテレビのニュースを見ていると、アナウンサーの頭上に、まるで天使の輪のようなものが浮かんでいるのが見えた。

「変なの。この人、頭に何かのっけちゃってさ」

「何もないじゃない」

雄一はテレビに指を差して説明するが、母には見えないらしい。

おかしいな。

学校に着いた雄一は早速数人の友達に聞いてみた。だが、そんなものは見えなかったとみんなが口を揃えた。どうやら天使の輪が見えたのは自分だけらしい。

一体あれは何だろう?

見えはじめてから一ヵ月が過ぎた日に、そのアナウンサーが交通事故で死んだことが報道された。

それで雄一は、自分に見えていたあの輪は、死を目前にした人間に出現するのではないか、と考えた。

近所に住むおじいさんに天使の輪が見え、それから一ヶ月後になくなった時に、やはりこれは人が死ぬ前に現れるのだ、と確信した。

それから何人か天使の輪を乗せている人間を見かけたが、それが死期が迫った人間に現れると考えると、いい気持ちはしなかった。

もし父や母や友達や、あるいは自分に天使の輪が出現したら、その事実の重大さに自分は耐えられるだろうか…。

雄一はそれから身長が3センチ伸び、体重は4キロ増えた。父を追い越し、家族の中で一番の長身になった。視力は左右とも0・5に下がり、黒板の字を見る時には眼鏡をかけるようになった。

天使の輪は相変わらず見えている。最近特に増え続けていた。

街を歩く人達に、車を運転している人達に、買い物をしている人達に、テレビに映る人達に…。

だが、天使の輪を持つ人々が増えはじめてから一ヶ月がたったが、何も起こらず誰も死んだりしなかった。

父にも母にも見えている。後頭部を思いきり殴られたような衝撃を受け、間違いであってくれと願った。

友人達にも、そして鏡を覗いた自分の頭上にも見えている。世の中の人間すべてに見えているのだった。雄一には地上に天国が出現したような光景にも見えた。

いったい何が起こるのだろうか。

また東日本大震災のようなのが来るのか。

だが、数ヶ月が過ぎても父も母も友人達も、誰ひとり死んだりしなかった。

雄一の成長とともに能力が出現したのだが、その能力もまた成長し、すべての人に訪れる死を、雄一は見つめることになったのだ。ただし、それがいつのことになるのかはもうわからない。(了)